講演録 / 新聞・雑誌クリッピング

2006年01月11日
産経新聞「心の傷 柔道仲間が癒す」
テロで母亡くした露の少年
招待で特別参加
テ ロで傷ついた心を柔道で励まそう―。昨年9月のロシア・北オセチア共和国の学校占拠事件で母親を亡くした少年が今月末に福岡県宗像市で行われる少年柔道大 会に招待選手として参加することになった。ロサンゼルス五輪の無差別級金メダリストで、国際柔道連盟(IJF)教育コーチング理事の山下泰裕さんの配慮も あって実現する。柔道経験者のプーチントロシア大統領からも直接、感謝の言葉が伝えられた。(只木信昭)


大会は27日に宗市のグローバルアリーナ体育館で行われる「第3回サニックス旗・福岡国際中学生柔道大会」。中学2年生以下を対象とした団体戦の大会で、 第1回から海外チームを招待している。昨年暮れの大会に参加したロシア・サンクトペテルブルクの競技関係者が「北オセチアのべスラン柔道クラブが参加を希 望している」と伝えてきたのがきっかけで、山下さんらが検討に入った。

ベスランといえば、昨年9月、チェチェン共和国独立派を中心とする多国籍武装集団が中学校を武装占拠し、7-19歳の少年少女と保護者計約1,100が人 質となった。ロシア治安部隊が犯人グループを制圧したが、銃撃戦で350人以上が死亡した。犠牲者の大半が子供だった。 

「心の傷を癒やせれば」と山下さんがベスランの柔道クラブの参加を、大会主催者のサニックス、グローバルアリーナ両社に打診したところ、両社も完全に賛同 し招待が決まった。 10月から始まった事務手続きの過程で、選手七人の中に事件で母親を亡くした少年が含まれていることが分かった。少年は1991年3 月3日生まれの14歳。大会の参加資格は、同年4月1日以降に生まれた選手となっているが、招待の趣旨から、特別に出場が認められた。

北オセチアは格闘技が盛んで、大相撲で活躍する白露山や露鵬の出身地。先月二十日に来日したプーチン大統領は関係者から今回の大会にベスラン柔道クラブが 参加することを事前に聞かされており、来日当夜に山下さんと面会した際、まずこの件を切り出して「本当に感謝している」と話したという。

大会には65チーム714人が参加予定。ロシアからもう一チームのほか米国、韓国、香港、ドイツからも招待チームが出場する。山下さんは「日本の少年たちと柔道で交流することで、少しでも傷ついた少年らの励ましになれば」と話している。

荷物をもって、一歩一歩踏みしめながら、確かな足取りで歩いていく大きな後ろ姿と、イメージが重なるようだった。
一覧ページに戻る