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アテネオリンピックを終えて 2004年8月30日

























予想外のメダル獲得数

 
オリンピック前の私の予想は、男女合わせて金4個、プラスマイナス2個。プラスになるかマイナスになるかは、紙一重だろう、と。その予想は、大きく外れました。これだけの金を獲ると予想した人は、まず、いなかったのではないでしょうか。

 特に女子の活躍には、目を見張るばかりでした。7階級で6階級決勝に進んで、5階級で金ですからね。選手のみんなが、堂々と、自信を持って柔道をしていましたよね。

 初日に野村と谷が二人揃って優勝したことが、若い選手が多いチームに安心感をもたらしたのだという気がしますね。

 私は、初日にも厳しいというか、現実的な予想をしていました。どちらか一つ。金が2個になる可能性と0になる可能性が、同じくらいだろうと看ていました。
 これまでも、世界選手権よりオリンピックのほうが、結果が悪い。



みんなが存分に力を出し切った

 試合をご覧になった方はおわかりと思いますが、それぞれの選手がしっかり投げられる技を持っていました。ですから、僅差で勝ち上がるのではなく、相手に有無を言わせず、技で勝負して、一本を取るケースが多かった。そして、ポイントを取っても守りに入らずに、自分の柔道を出し切ることに心がけていましたね。
 もうひとつは、寝技をうまく使っていたことですね。



試合の流れを切らない審判

 今回のオリンピックでは、できるだけ試合を切らない、最後まで試合の流れを見極めるという審判理事の方針でした。
 例えば、片方が技をかけて相手が両膝をつく、そこからさらに技をかけても、以前なら相手が両膝をついた時点で「待て」がかかって技として認められなかった。今回は、技をかけられて頑張っていったん止まっても、その後に技をかけられたらそれがポイントになる。
 審判は試合の流れを止めないということを、審判理事はここ一年くらい盛んに強調してきた結果だと思います。そのことを日本の選手たちは、有効に使っていた気がしました。


これまでにないプレッシャーか?

 谷の2連覇、野村の3連覇は大変な記録です。この2人が初日に素晴らしい試合で優勝したことが、続く選手たちに「オリンピックは世界選手権とは違うんだ」ということではない、平常心で試合に臨ませることができたんだと思います。
 そんな中で、ひとり。一番金に近いと言われてきた井上康生が、よもやの惨敗。これも、予想しづらかった。
 初戦から、いまひとつ、技の切れが悪く、準々決勝で敗れ、敗者復活戦でも破れる。世界の多くの柔道関係者が、ああいう形を想像しなかったと思うんです。
 本人とはまだ話していないんですが、やはり、日本チームの主将という立場からか、金に一番近いと言われていることからか、これまでにないプレッシャーを感じていたらしく、試合の前日も眠れなかったという話を聞いています。
 試合前に一度、稽古を見に行きました。当日も見に行ったのですが、変わった様子は見られませんでした。本番では、今までに見たことがない内容の試合でした。



国際柔道連盟の教育コーチング理事として

 今回のオリンピックには、初めて、国際柔道連盟の教育コーチング理事として臨みました。
 初日に、ポンポンとふたつ勝って、次の日も勝って・・・。その頃から、まわりの雰囲気が何となくよそよそしく感じまして・・・。「おまえ、いくつ獲るつもりなんだ!?」という冗談もありました。
 オリンピックサイクルで動いているんですね。つまり、ここでの結果が、その国の監督やコーチの去就に直結するんです。日本がこれだけメダルを獲ったと言うことは、他の国はほとんど獲れなかったと言うことですから、来年のエジプトの世界選手権では、監督やコーチの顔ぶれが変わるんじゃないかと思います。国によっては、会長が替わるところもありますからね。
 ですから、日本の選手が勝っても、できるだけ喜びを表に出さないようにしたんです。試合の後も、普段でも、できるだけまわりを刺激しないように行動していました。



本部の役員は、勝っても喜んじゃダメ!?

 以前、私が聞いていたんです「本部の役員は、自国の選手が活躍しても、喜びを表すことはイカン」と。でも、案外、そうでもないんですね。
 3日目に、韓国の男子73キロ級の選手が優勝したんですが、その瞬間に、国際柔道連盟の朴会長が思わず、「やったー!」と思わずテーブルを叩いて。それほど堅いテーブルじゃあないんですが、打ち所が悪くて、親指を腫らしていました(笑)。私が、「韓国の選手、良かったですね」と握手を求めたら、「思い切り喜びすぎて、指を腫らしてしまったよ」と苦笑いされていました。
 それで、私も、優勝した瞬間くらいは構わないんじゃないかな、と。準決勝までは、比較的静かに、そして、優勝した瞬間には、素直に喜びを表すことにしました」



本当の柔道とは何なのか

 全部で14個しかない金メダルを、8個獲った日本の、柔道界の勢いに、世界はビックリしたのではないでしょうか。世界で勝っていくためには、やはり、しっかりした技を身につけることが大事だと、再認識したのではないかと思います。
 私の時にはなかった、足を取ったり、とか、肩車、とか、そういう技が主流になってきつつあります。ポイントを取ったら、逃げをする選手もいます。逃げると弱気になるから、結局、負ける選手が多いんです。
 日本がたくさん勝ったことが、「非常に残念」「面白くない」という顔をしている人も、かなりいたようです。しかし、日本の勝ち方をみて、「素晴らしい内容で勝ってくれたので、本当の柔道とは何なのかの、模範を示してくれたことがよかった」と言ってくれた人もいました。
 まさか、のメダルの数でした。全てが裏目に回ることもありますが、今回は、いろんな人の力が、いろんなことが良い方向に、ひとつにまとまったのではないかと思います。




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