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欧州選手権視察・番外編 |
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スロバキア〜ハンガリー国境で体験した夜 私たちは、5月に行われたヨーロッパ選手権を視察に スロバキアの首都、ブラチスラバに出かけてきました。 そこで体験した、印象深い体験についてお話します。 「ヤマシタさん、夕食でも一緒にどうですか」 と誘ってくれたのが、スロバキアの隣の国、ハンガリーからやってきていた ハンガリー柔道連盟会長のDr.ラズロー氏でした。 「そこいらで食べるよりも、せっかくだからハンガリーに行きましょう」 ラズロー氏は、国境を越えてハンガリーのレストランに行こうというのです。 ブラチスラバはスロバキアのなかでもオーストリアとハンガリーの国境に近い はじっこの方に位 置していて、ハンガリーまでは バスで40分ぐらいのところにあるのです。 隣の国までちょっと夕飯を……というのがいかにもヨーロッパらしい。 「ビザは大丈夫かなあ」という一抹の不安はありました。 というのは、日本人はハンガリーへは特にビザはなくても入国できるのですが スロバキアに入国するときビザが要るのです。 私たちは一回だけ入国できるビザを持っていましたが、 それを出国するときに取られて(失効して)しまうと帰りはもうビザなしです。 「そんなの平気。何とかするから」と ラズロー氏はまったく気に留めていません。 さすがヨーロッパの人は国境に慣れています。 全日本コーチの細川と二人で私は国境越えのバスに乗り込みました。 ラズロー氏お薦めのレストランは、池のほとりにある とても良い雰囲気のハンガリー料理の店でした。 そこでラズロー氏は、オスマントルコ、ドイツ、ソ連を相手にした ハンガリーの長い闘いと抵抗の歴史について話してくれました。 世界選手権が行われていたスロバキアのブラチスラバも、 そんな複雑な歴史のなごりで、人口の半分ぐらいは ハンガリー人(マジャール人)だということです。 私は、もう少し世界史を学生時代に学んでおけばよかったと反省しきり。 EUとして一つの大きな勢力になろうとする反面、 それぞれの民族が自立を強く主張しはじめている欧州は まだこれから解決すべき課題もさまざまにあるのでしょう。 そのハンガリーはいま、経済の西欧化が進む一方で 若者たちの犯罪などが深刻な問題になっているということでした。 そんななかで、ハンガリーは5つの強化競技のなかに柔道を入れ 国をあげて強化・振興を図っています。 「柔道は、勝敗を争うだけではなく、健全な若者の育成に絶対に寄与するものだと、 私は信じている。だから私は柔道の指導を続けているし、これからもがんばっていき たい」 ラズロー氏はこう話してくれました。 ああ、嘉納治五郎先生の精神が、 日本からはるか離れたハンガリーでしっかりと実を結んでいる… 私は胸が熱くなるとともに、 日本の柔道界を振り返ってみて 果たして勝利至上主義だけになっていないだろうかと 深く考えさせられました。 さて、そんな印象深い食事の後で、スロバキアに帰るバスに乗るなり 車中で私はぐっすり寝込んでしまいました。 ところが、細川に言わせると大変だったらしいのです。 やはり、ビザを持っていない私たち2人が スロバキアに再入国するのはなかなか認めてもらえず 国境でバスを停められて、ラズロー氏たちがスロバキア側と交渉してくれて 1時間後にやっと通 してもらえたとのこと。 のんきに眠りこけいた私はそんなことを何も知りませんでしたが 周囲は真っ暗だし、閉じ込められたバスの中で 本当にスロバキアに戻れないのではないかと 細川は大いに心細かったそうです。 |
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