一人ひとりが変わることで本当の豊かさを
■山下:そのためには我々大人一人ひとりが自分の良心や真心に恥じない行動を取るように自らを変えていくことからスタートしないといけないですね。マスコミだって理念を忘れて、売り上げ至上主義・視聴率主義でしょ。本音と建前が違いすぎるんです。そんなことでは子どもに何を言っても無駄
ですよ。
■尾木:子どもはそういうことに対して敏感だし、すぐに見抜きますよね。教師は聖人君子ではないけれど、ひとりの社会人として前向きな生き方やモラルをもっていれば、子どもが間違った行動をしたときに、心に届くしかり方ができるようになると思うんです。
■山下:教師にその責任が一番大きいけれど、我々大人がそこを自覚して、社会の先輩として子ども達に注意してあげられるような、そういう正義感とか勇気や思いやりが必要ですよ。
■尾木:まず大人が自信を回復させることが必要ですね。そのためにはどうすればいいと思われますか。
■山下:そのことを広く知ってもらうためのキャンペーンが必要だと思います。ぼくが一番嫌いなのは、自分は第三者で関係がないとばかりに「今の子どもは〜」とか「世の中が悪いんだよ」と言う大人です。非行もいじめも残虐な行為も全て我々一人ひとりの行動が関係しています。このままでは日本は大変なことになるという状況に対して、自分が変われば回りも変わるということに大人が気づいて、自分の良心に恥じる行動をしなかっただろうかと毎日胸に手を当てるようなことが大事だと思うんです。ここにぼくは昔の日本人のすばらしさがあったと思うんですよね。
■尾木:そこが吹き飛んでしまったんですよね。儲けと、数字になって出てくるものばかりを追い求めるようになってしまいましたよね。
■山下:戦後、経済復興のために物質的な豊かさを求めていく中で、一番基本となる日本人らしさというものをなくしてしまった気がしますね。しかし、我々の中には必ずその基本となる日本人らしさが眠っていると思うんです。それを目覚めさせていったときに次の時代に日本が世界のために一つの役割を果
たせると思うんです。
■尾木:そうですね。ぼくはパートナーシップだとよく言うんですけど、大人と子どもが手をつないで一緒に地域をつくり国をつくっていく。子どもたちの新しい発想とかエネルギーをもらいながらもう一回、みんなで日本人の心をつくりなおしていきたいですね。
■山下:本当の豊かさや本当の幸せが何なのかということを我々が再確認するべきです。そして自分だけの幸せではなく、世界中の困っている国や困っている人たちのことに心が届くようになったときに、本当の意味での豊かさというものができてくると思います。
■尾木:そういう豊かさをつくっていける学力は何かというところでもう一度高い視野から学力をとらえなおしていきたいですね。
■山下:生きる力についてもいろいろと言われていますが、これを実際に教科だけで生かしていくのは難しいかもしれません。相手を思いやる心、力を合わせる心、我慢する心など、「生きる力」を育むためにスポーツ界ももうひと工夫もふた工夫もしたい。その意味でスポーツが果
たしうる役割も大きいと思います。柔道界としても嘉納治五郎師範の原点に返って、勝ち負けだけのスポーツではなく、柔道をとおした人間教育を目指していきたいと思っています。
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